Pharrell/In My Mind(06年7月26日発売/東芝EMI)

yuzurusato2006-09-28


ネリー・ファータドのプロデュースで健在ぶりをアピールしたティンバランド。ナールズ・バークレイやゴリラズで目下のところ恐いものなしの状態のデンジャー・マウス。クリスティーナ・アギレラの“Ain’t No Other Man”で素晴らしすぎる仕事をしたDJプレミアや、サントラでありオリジナル・アルバムでもある『Idlewild』が素晴らしいことになっているアウトキャストなど、他ジャンルを取り込みながら他ジャンルに強い影響を与えているヒップホップ。今、すんごく面白いです。僕はダンス・ミュージックを聴くことが多いのですが、数年前からダンス・シーンとのクロスオーバーがより盛んになっていることもあり、非常に興味深く楽しんでいます。

さて、優れたプロデューサーが次々と良質な作品を世に送る中で、N.E.R.D.ネプチューンズで活躍する他、ファッション・ブランドも手掛けるなど、勢力的な活動をしているファレル・ウィリアムスがソロ・アルバム『In My Mind』をリリースしました。延期を重ね、急に発売が決まったこともあり、ドタバタした中でリリースされた印象があります。

UKロックに近いニュー・ウェイヴ的なムードも感じられたN.E.R.D.や『The Neptunes Present... Clones』収録の名曲“Frontin’”など、ユニークで実験的なビートやシンセ使いとは裏腹に、ファレルの根底にはとてもスマートかつエレガントなソウル・マナーがあります。こうした部分が本作でも存分に発揮されていて、ヒップホップ・リスナー以外も巻き込む牽引力となっているように感じます。

カニエ・ウェスト“Touch The Sky”を彷彿させるダイナミックなシンセの突き抜けるような解放感が印象的な“How Does It Feel?”。ドラムロールと伸びやかなシンセが広がるブレイクがやたらカッコいい“Best Friend”。ファミコンみたいなチープなシンセとビートの重ね方が面白い“Keep It Playa”。シンフォニックなシンセのメロディと絹のようにしなやかなファレルのヴォーカルが楽しめる“That Girl”。“Frotin’”をアップリフティングにしたようなメロウチューン“Angel”は個人的には本作のベスト・トラック。シカゴハウスや昔のヒップホップで使われていたエレクトロな音色と、温かい浮遊感のあるヴォーカルの組み合わせが意表を突く“Take It Off(Dim The Lights)”。エレクトロ色全開の“Baby”。コミカルなシンセと上品なシンセの組み合わせと昔のヴォーカル・グループっぽい粋なサビが合唱したくなる“Number One”。分厚いビートとハモンドの音色から突如民族調のチャントが挿入される“Skateboard P Present; Show You How To Hustle”。日本的な音階がループされる“Swagger International”といい曲が揃っているのも高感度大です。

例えばラップがモノトーンな時はシンセがメロディを、ウワ音が少ない時はビートで上手に音色やユニークさを、シンプルなビートには上質な歌声をといった感じで、巧みにそれぞれのパートが補完し合い、一定ラインの聴き易さをキープしている。それに加えてビートやシンセ、サンプリング、音色がいちいち面白い組み合わせを見せてくれる。この2つを平行して行なえているところにファレルの素晴らしいセンスを感じます。ラップの内容はここでは省略しますが、ラップの内容が分からなくてもとても楽しめる素敵なアルバムです。

ナールズ・バークレーにおけるデンジャー・マウスや、アウトキャスト、そしてこのファレルと、いずれのプロデューサーもソウル・ミュージックへの強い愛情が感じられる作品を作っています。その中でもファレルのソウルに対するアプローチというのは、あくまで個人的な感想ですが、どこか神聖なものに払う敬意の念のような感じを受けます。音で遊びつつも、サウンドがラフでも、声質とあいまってヴェルヴェットのような上品さとしなやかさを持っている。やんちゃな子が見せる敬虔なる表情。それがファレルの魅力なのかもしれません。

CSS/Cansei De Ser Sexy(06年10月18日発売/KSR)

yuzurusato2006-09-23


プリミティヴなビートとサンプリングが話題のバイレ・ファンキで世界を刺激しているブラジル(本国では結構前にシーン自体は割と落ち着いているという話を聞きました)はサン・パウロから元気な新人さんの登場です。その名もCSS。「Cansei De Ser Sexy」の略で、ビヨンセの「Tired Of Being Sexy」(セクシーでいるのにも疲れたわいな)という発言から取ったバンド名で、本作『Cansei De Ser Sexy』はかつてはニルヴァーナやマッドハニー。最近ですとポスタル・サーヴィスなんかを輩出しているアメリカはシアトルの名門インディ・レーベルSub Popからのリリースになります。

アーティスト写真を見るとブラジル出身のバンドとは思えないような(←失礼)ファッショナブルな出で立ち。NYのバンドと言われてもあんまり違和感がないというか。実際かなりアートへの指向の強いバンドみたいで、このやたらかっこいいジャケットもバンドのメンバーによるものだそうです。アルバム収録の“Fuckoff Is Not The Only Thing You Have To Show”という思考停止状態のパンクスに唾を吐くような痛快なタイトルも、ライヴで男性下着を投げまくるパフォーマンスもそうしたバンドのスタンスの表れでしょう。ひとりだけフレディ・マーキュリーにそっくりな人もいて、そこも気になリ過ぎてしょうがないんですが、キリがないのでひとまずほっときます。

さて、僕がこのバンドを知ったのは、Diploが運営しているMad DecentからリリースされたEPが好調のBonde Do Role(バン・ジー・ローと発音するはずなのですが、ちょい不安なので英語表記にさせて下さい)でひとり腹踊りをして盛り上がっているところを知人に教えてもらってからでした。で、さらに正直に話すとそのシングルは“Let Make Love And Listen To Death From Above”という割と分かり易いディスコ・パンクなトラックで、ポップでカッコいいのだけど、正直ディスコ・パンクなんてピンからキリまでこれまでに飽きるほど聴いてる訳でして、それほどピンとは来なかったわけです。

ところがですよ。アルバムが実に素晴らしい! シングルで彼女たちの魅力を完全に見誤っていたことに反省しきりです。

アルバムはシングルで見せたディスコ・パンクっぽい路線かと思いきやそうではなく、エレクトロクラッシュからヨーロッパっぽいゴシックなムードを抜き取って、代わりに90年代のUSインディ・ロック的な解釈を持ち込んだようなロック・サウンド。トラッシーな打ち込みビートばかりでなく、荒削りでダーティなディストーション・ギターとポップなメロディとシンセの組み合わせがエラいかっこいいロック・アルバムです。Sub Popが契約したというのもなんとなく頷けます。

どことなくスーパーチャンクや初期ソニックユースを彷彿とさせるローファイなギターの軽快なコンビネーションが気持ちいい“Patins”。チープな打ち込みとシンセ、シンプルなメロディが無駄なく組み合わされた“Alala”。M.I.A.の“Pull Up The People”とビースティ・ボーイズ“Sabotage”をマッシュアップしたような ワイルドなパンク・ロック・チューン“Art Bitch”。豪快なキックとメランコリーなシンセが都会の夜をイメージさせる“Meeting Paris Hilton”。ちょっとペイヴメントを思わせるリラックスした心地よいローファイなロック“Alcohol”。チープさが却って癖になるファンク・チューン“Music Is My Hot Hot Sex”。“Let Make Love And Listen To Death From Above”と近いムードを持つ“This Month, Day 10”。シンプルな作りが貫かれていながら、どの曲もいちいちセンスがよくポップ! レ・ティグレと共振するようなインテリジェンスなパンク・スピリッツとアートへの果敢、そしてビースティに通じる豪快さ感じるのです。

かつて閉塞していたロック・シーンを打ち破った90年代のインディ・ロック・バンドたちのような風通しのよさと破壊力を持ったロック・バンド、CSS。ロックンロール・リヴァイヴァルが落ち着ち、ある意味ロックンロール自体が様式美化しているきらいもあるロック・シーンに新たな火種を投げ込むか? ジャンルを超えた超エネルギー体。彼女たちにはそんな勢いと魅力を感じるのです。

Grizzly Bear/Yellow House(06年9月2日発売/Beat Records)

yuzurusato2006-09-19


最近自分の中で、ニック・ドレイクやらニール・ヤングやらトム・ペティやらジム・オルークやらアコースティック・サイドのベックやらヴェルヴェットの3枚目やらTレックスの『A Beard Of Stars』やらシド・バレットベス・オートン『Comfort Of Strangers』(ジム・オルークがプロデュースしたカントリーなアルバム)や先日紹介したニーコ・ケースなどなどなどなどなど、サイケ、フォーク、アシッド・フォークの名盤を聴き返している日々なのですが、そんな中で出会った素敵な作品がこのグリズリー・ベアーの『Yellow House』です。

ニューヨークはブルックリンを拠点に活動し、最近話題のTVオン・ザ・レイディオとも親交が深い(音には何の関係性もないですが)というグリズリー・ベアーは、元々はエドワード・ドロストのソロ・ユニット。ファースト・アルバム『Horn Of Plenty』にドラムのクリストファー・ベアーが参加してから、クリス・テイラー(ベースや木管楽器やエレクトロニクス担当)、ダニエル・ロッセン(ヴォーカル/ギター)とメンバーが徐々に加入し現在のラインナップに落ち着きました。そして、本作がシェフィールドの老舗テクノ・レーベルで最近は良質なロック・バンドも積極的に輩出しているWarpに移籍しての記念すべき第1弾のアルバムとなります(実際は通算2枚目のアルバム)。バンドとしての体裁が整い、馴染んだこともあり、ベッドルーム・フォークな風合いの強かったファーストに比べ、ラフながらもより成熟されたバンド・アンサンブルが楽しめます。

で、このアルバム。冒頭を飾る“Easier”からとんでもないことになってます。爪弾かれるアコースティック・ギターを包み込む柔らかい霧雨のようなシンセから生まれる極上のサイケ空間への飛ばしっぷりはここ最近聴いたアルバムの中でもかなりの飛距離。こっちの事情なんて構っちゃくれません。90’sのサイケデリックシューゲイザーを通過したニック・ドレイクボーズ・オブ・カナダのバンド的解釈? 夢から醒めないアニマル・コレクティヴ? フレイミング・リップスとキスしたヴェルヴェット・アンダーグラウンド? とまあ自分のボキャブラリーの貧困さに鬱になりますが、豊潤な音響空間によって表現されるとろっとろにとろけた箱庭的世界観。ディティール重視というより、ざっくりぶっちゃけた作りの音響だからこそ実現できた繊細ながら実にダイナミックなサウンド。そのせいかズルズルなサイケっぷりと中毒性もかなり凶悪です。

アコースティックをベースにサイケデリックな音響を加えた“Lullabye”“Knife”“Lttle Brother”、ドローンな空間の中を物憂げに踊るナイトメア・ワルツ“Marla”、昇天必死のラスト“Clorado”と白昼夢のような美しい楽曲だけでなく、“Central And Remote”や“On A Neck, On A Spit”など、アグレッシヴかつ混沌とした展開を見せるガレージ・サイケ・チューンもまた素晴らしい。00年代に彗星のように表れたサイケデリック・フォーク・バンド、グリズリー・ベアー。90年代のマーキュリー・レヴやフレイミング・リップス同様、リスナーをあちら側の世界に連れて行ってくれること必死の1枚です。またこうした作品が90年代の音楽的進化の一端を担い、最近元気なことこの上ないWarpからリリースされることに、時代の巡りと音楽の進化の流れを感じさせられると思うのはちょっと言い過ぎでしょうか。

Various/The World Is Gone(06年10月25日発売/Waner/Beggars Japan)

yuzurusato2006-09-14


アナログ・シングルがネット通販でバカ売れし、レディオヘッドトム・ヨークが大のお気に入りという触れ込みもあり、人気沸騰中のVarious(記号のような感じっぽいので英字表記にします。ちなみに海外ではVariousで検索するといつまでたっても辿り着かないので、Various Productionsという形で表記を取っているみたいです)のアルバムがリリースです。海外では既に7月にリリースされています。

これまでに4枚の7インチ・シングルと4枚の12インチのシングルをリリースするのみで、オフィシャルのHPでもアーティストの詳細などは明らかにされていません。イアンとアダムという人物がやっているとほのめかしてはいますが、そこら辺の覆面ユニット具合は、出オチの感すらあったゴリラズに比べかなり徹底されているようです。

サウンドIDMエレクトロニカ、クリックを経由したドープなダウンビート、唸るようなベースにダークなウワものと歌が乗るというもの。マッシヴ・アタックU.N.K.L.E.などのトリップホップサウンドの現代的解釈と言えばしっくりくるでしょうか。ダブ/レゲエからの影響も強く、歌ものへの強い意識やエレクトロニックな味付け、映画音楽的なアプローチと巧みに溶け合わせるサウンド・プロダクションの異様なクオリティの高さは新人さんとは思えない仕上がりです。

アルバムの聞くと三つの軸があるうようです。ひとつは歌心をフィーチャーしたトラック。アコースティック・ギターアルペジオと女性ヴォーカル囁くような歌声が美しい“Deadman”や東欧を思わせるエキゾなアコースティック・チューン“Fly”。ダイドを少しブルージーにしたような凛としたヴォーカルとスモーキーな音響とエレクトロニックな味付けが絶妙なバランスで構築された“Circle Of Sorrow”がそう。

もうひとつの軸は攻撃的なトラック。フィードバックやノイズ、歪んだスクラッチが唸りを上げて襲いかかる“The World Is Gone”。粒の立った強力なビート、神経を圧迫するような“Thunk”。たたみかけるようなビートと不穏なメロディのシンセがとぐろを巻いている“Soho”。ソリッドな打ち込みと脳にゲジゲジを這わせるような歪なシンセがビリビリ身体を波打たせてくれる“Don’t Ask”などです。

そしてもうひとつの軸は上のふたつの要素を掛け合わせたようなトラック。最近のマッシヴを思わせる吸着力のありそうなムチっとしたビートによるダブステップ、奥行きのある音響と緊迫感のあるベースがホラーコアなムードを演出する“Sweetness”。美しいヴォーカルとスクラッチや緊迫感のあるシンセや飛び音でビルドアップしていく荘厳な“Today”。退廃的なダウンビートに切ない男性ヴォーカルが響き渡る“Sir”など。ここら辺がこのユニットの打ち出したいところなのかも。個人的には聴き手を持っていく展開力が素晴らしい“Sweetness”がグッときました。歌心を併せ持ちながら非常にイルなサウンドトム・ヨークが好きなのもなんだか納得です。

それにしても、もうトリップホップが戻ってきているのかと思うと時間の早さにビックリします。とは言え『Protection』からもう12年。『Mezzanine』から9年なんですよね。今シーンではプリミティヴなダンス・ミュージックが勢いを取り戻しはじめてきていていますが、当時ビッグビート表裏一体のような関係だったトリップホップ的なサウンドが再び戻ってきたのは、ある種のお導きなのかもしれません。そのひんやりとしたサウンド・デザインの奥からマグマのような熱さを吹きさらすVarious。オススメです。

Justice/Water Of Nazareth(発売中/WARNER)

yuzurusato2006-09-13


ダフト・パンクのマネージャーにしてEd Banger Recordsを主宰しているペドロ・ウィンターの秘蔵っ子であり、ポスト・ダフト・パンクとして現在ヨーロッパを中心に人気爆発中であるフランス出身のユニット、ジャスティス(メンバーはギャスパール・オゥジェとハビエル・デ・ロズネイの2人)のシングルです。ヒットシングル“Water Of Nazareth”とそのリミックスを含む全6曲が収録されています(海外でリリースされたのは2005年になります)。

彼らが注目を集めたのはシミアンをヴォーカルに迎えたニュー・ウェイヴっぽいディスコ・チューン“Never Be Alone”で、この曲が名門International Deejay GigoloのオーナーであるDJヘルの耳にとまり、リリースされたことで大きなヒットを獲得します。ただ、個人的には夜のネオン街を思わせるメロディックなシンセが巧みに使われた『Never Be Alone』は、2004年当時大きな成功を手にしていたMyloと共振するような内容で、ヒットするのも「ああ、分かるなあ」と言った程度の印象に止まっていました。

そうした印象が変わっていくきっかけとなったのがこの“Water Of Nazareth”と彼のリミックス・ワークです。フランツ・フェルディナンドの“The Fallen”やファットボーイ・スリムの“Don't Let The Man Get You Down”などなど、コンプレッサーとディストーションをかけまくり、カットアップを多用した歪みまくりでスッカスカのファットなディスコ・サウンドを披露。ディスコ・パンクならぬポゴ・ハウスとでもいいましょうか、ささくれ立った超過激なサウンドで一気にフロアに火をつけたわけです。今聴くと“Never Be Alone”にもその匂いはほんのりと感じます。

シカゴ・ハウスとヒップホップへの愛情がっちり根っこにあるダフト・パンクに比べ、よりロック色が強いのがジャスティスの持ち味。原曲よりもさらに強烈なセルフ・リミックス。タフなビートと迸るかすれたシンセが印象的な“Let There Be Light”。タテノリのドシャメチャなビートとクラシックのような音階で奏でられるシンセがスリリングな“Carpates”。頭の悪さ全開で突っ走る“Let There Be Light”のDJファンクによるシカゴゲットーなリミックス。原曲にエフェクトを加えつつ、クラッシュシンバルなどの圧縮されてないリズム・ソースも付け加えた、狂気と軽やかさを同居させたようなエロル・アルカンズ(こちらも現在あらゆるジャンルのあらゆるアーティストたちからリミックスの依頼が殺到している人気プロデューサー。今後の動きにも是非注目して下さい)のリミックス。まさにユニットの持ち味が出た先制パンチとしては最適な1枚です。

ダフトとは似ているようで異なるオリジナリティ。例えば『Homework』が好きな方からしたら違和感も出てしまうでしょう。実際そこを指摘してハイプと呼ぶ向きもあるようです。んが、そもそも「ポスト・ダフト・パンク」なんてそんな無理矢理な冠をつける方が間違い。

今最も凶暴なダンス・ミュージックを作るユニット。

このシンプルな形容で十分でしょう。余計な冠を取り去れば、そこにあるのは実に豊潤なる才能を発揮する鬼っ子たちの見目麗しい勇姿。そんな素晴らしい彼らの今を是非体感して下さい。

RYUKYUDISKO/PEEKAN(発売中/platik)

yuzurusato2006-09-06


アンダーグラウンド・シーンのアーティストのインタヴューを積極的に掲載しているジェットセットレコードのHP。そこでMIAのプロデューサーとしても知られ、今最も熱いDJ/プロデューサーとして注目されているディプロが日本のクラブ・シーンに対して次のようなことを言っていました。

「日本はいつになったら琴を使った新しいベース・ミュージックを作り始めるんだい? 早く作ってくれよ!」

これを読んで筆者は「流石バイレ・ファンキを広めたローカルビート大好きっ子、かっこいいなあ」という気持ちを抱くと同時に、なんだかとても悔しい気持ちになったものです。なるほど、確かに日本のクラブ・シーンでいわゆる日本のローカル・ミュージックをダイナミックに活かしたアーティストは少ない。「お前らの国にはこんな面白い音楽が転がってるんだぜ。気づかねーの?」と言われているようなもんじゃありませんか。悔しくないわけがありません。

そういうわけで、筆者にとってRYUKYUDISKOの登場は非常に嬉しいものでした。沖縄の音楽とテクノのチャンプルー。まさにローカルビートを存分に活かした日本のダンス・ミュージックです。そしてそのサウンドの強烈さは昨年のWIRE05でのフロア全員が、踊り方を知らなくても沖縄舞踊のような踊りを自然とはじめたことでもお分かりいただけるでしょう。これがカルチャーとして浸透した音楽の持つ強さなのかもしれません。

さて、前作『RYUKYUDISK O TECH』から約1年半のインターヴァルを経てリリースされたのが今回紹介する『PEEKAN』になります。

今作のテーマは「テクノ」とのこと。確かにビートはビルドアップされ、空間的なシンセやエフェクトも多用されています。“Tropical Beach”はアシッドベースと空間シンセが映える日本流のクロスオーバー・トラックですし“Fingerworks”などミニマル・チューンも増えました。しかし、これは前作にもあったことであり、今作でなによりも大きかったのは音の整理がしっかりなされていて、ビートやサンプリングした三線の音やヴォイス・サンプルがより効果的にダイナミックに響いてくることでしょう。特に“RKD TEKNO”“Uchina Experience”“Fascinating Instruments”“WIRE DENBU”の流れは素晴らしく、聴き手を心地よい世界へとあっという間に連れていくような強力なパワーがあります。

ZAZEN BOYSの“HIMITSU GIRL'S TOP SECRET”をサンプリングした“ZAZEN beats”や“Native Guitar”のまるで真剣で一刀両断するようなド迫力のアタック感。“Naminoue New Wave”の分厚いシンセとメロディアスなシンセの心地よいコントラスト。壮大なブレイクが心地よい“Trans KOZA Express”。バリエーションに富みながらもいずれの楽曲も輪郭がはっきりしており、1曲の主張が強くなっています。

そうすることで、より魅力を増しているのがダウンビートから四つ打ちにリズムがめまぐるしく展開していく“WIRE DENBU”や“Araha Freestyle”のような彼ら独特のせわしないチャンプルーサウンドです。個人的にはこうした沖縄の音楽の要素が強く出ている曲がもっと増えてもいいなと思いました。もちろんアルバムではバランスも大事になってきますが。

ともあれ、ワンアンドオンリーなダンス・ミュージックを聴かせるRYUKYUDISKOは今作で早くも大きな成長と高いセンスを見せつけました。夏にぴったりな楽しい祭りサウンドはもちろんのこと。日本には日本独自のダンス・ミュージックがある。それを確認する上でも本作はとても大きな意味があると思うのです。

Tim Deluxe/Ego Death(06年9月27日発売/Beat Records)

yuzurusato2006-09-05


2004年に取材でマイアミのWMCに行った時に、ファレルとディープ・ディッシュが談笑しているのを目撃しまして、こうしたところでボーダーレスな興味深い交流が生まれているんだなあと思ったのを覚えています。

さて、現在ダンス・シーンを盛り上げているエレクトロは、ヒップホップ・シーンやポップ・シーンにも波及しておりまして、例えばジャスティン・ティンバーレイクネリー・ファータドなどの新作にもその影響が感じられます。

もちろんテクノ/ハウス・シーンの多くのアーティストたちにも強い影響を与えているのは言うまでもなく、ラテン・フレイバー全開の前作『The Little Ginger Club Kid』で大ブレイクを果たしたティム・デラックスの最新作『Ego Death』もエレクトロの影響が色濃く出たアルバムとなりました。

話を聴くと、なんでもティムはツアー頑張り過ぎたせいで一時期ダンス・ミュージックの新譜をチェックするのを怠っていたよう。そんな彼を再びダンス・ミュージックへと振り向かせたのがスウェーデンのエレクトロ、コズミック・ハウス系のアーティスト、Get PhysicalやPoker Flatなどのドイツのミニマル・ミュージックだったそうです。また同時に90'sリヴァイヴァルの流れにも触発されたと発言しています。

コズミック・ハウス的なキラキラしたディープなグルーヴが活きた“Rubber Seduction”。ピキピキしたシンセの音の響きでハメていく“U Got Tha Touch”や“Let The Beats Roll”(オーディオ・ブーリーズが参加)。トラッシーなギターリフとタメの効いたブレイクが特大の爆発力をもたらす“I Don't Care”。“Choose Something Like A Star”直系の90年代テクノのクロスオーバーな魅力を感じさせるドラマチックな“Espoo's Rose”など、そうした近年のシーンの熱気はアルバムの随所から感じることができます。そこに引っかかりのいいメロディと、ファンキーなビートを巧みに織り込むことで、ティム・デラックスらしいポップな作品に昇華されました。シンセを多用したディープなプロダクションがベースですが、間口の広い作風に仕上げているのは流石のひと言です。

また今作ではマッシヴ・アタックを思わせるような荘厳なダウンテンポ・チューン“Egodeath”や、ブライトなアコギの響きが優しい歌心溢れるポップなナンバー“D.O.A.”とダンストラック以外の曲でもしっかりとした主張が感じられます。特に本人のお気に入りだという“D.O.A.”はとてもソウルフルな曲で、ティムのソングライティングの成長を如実に感じさせる曲に仕上がっています。

録音方法もハウスっぽくない音を見つけるために、ギター、ドラム、ベースによる3ピースのバンドによるセッションから素材を録音し、組み立てていく手法をとるなど様々な試みがなされていて、四つ打ちでも単調さは感じさせません。

より大きな場所で爆発しそうな特大のブレイクとトリッピーな音。また車の中でも聴けるようなポップでパーソナルな色合いを持ったトラック。そんな相反しそうな要素が入り混じる実にユニークな魅力に満ちたアルバム。これからのサウンドの広がりをも示唆するティム・デラックスのアーティストとしての野心が全開になった1枚です。まあ、ジャケットは違う意味でチャレンジ精神に溢れているような気がしますが、これもいかにも彼らしい。長く楽しめるアルバムなので是非お試しあれ。