Hot Chip/Coming On Strong(2004年5月17日発売/moshi moshi records)

yuzurusato2006-12-08

“Boy From School”のエロル・アルカンのリミックスや“Over And Over”がテクノ、ハウス、エレクトロ問わず色んなDJからヘビー・ローテーションされるなど、今年リリースされたセカンド・アルバム『The Warning』が好調なディスコ・エレクトロ・バンド、ホットチップ。セカンド・アルバムもそのうち紹介いたしますが、今回はファースト・アルバムの『Coming On Strong』を。

レイヴ・ハードコアまで飛び出し、ダンサブルな要素が強くなったセカンドに比べ、ファースト・アルバムはよりソウルフルでムーディ・アンダートーンな仕上がりになっています。ブラックではなくホワイトなソウル。しかも負け犬的な雰囲気がかなり強く、それだけで私は胸がときめいてしまいます。

バンドのヴォーカルで中心人物であるアレクシアは筋金入りのプリンス好きで、その影響のせいか、ねじれたポップセンスが効いたソウル・チューンが『Coming On Strong』には多数収録されています。酔っぱらったようなリズムとため息のようなアレクシアのヴォーカルが“Take Care”。端正なコーラスワークとコミカルな音色なのに静謐な雰囲気を醸し出すバンジョーの組み合わせが面白い“The Beach Party”。“Take Care”よりさらにため息度が増した“Playboy”。乾いた打ち込みリズムとブルーアイドソウル直系の哀愁溢れるメロディが心地よい“Crap Kraft Dinner”。アルバムの中でも温かなバイブレーションが印象的な“Bad Luck”。2ステップっぽいリズムが四つ打ちに雪崩れ込んでいくアップリフティングな“You Ride, We Ride, In My Ride”。イールズあたりとも共振しそうな、暗く温かな“Shining Escalade”や温かな希望に満ちた“Baby Said”。ストリーツあたりと共振しそうなソリッドなリズムが印象的な“A-B-C”(2005年にリリースされたAstralwerk盤に収録)。チャカポコしたリズムが高めのテンションでドライブする“Hittin Skittles”(Astralwerk盤に収録)。そして、バッドリー・ドローン・ボーイのリミックスでも見せた温かく柔らかく天使のような神々しいアンサンブルが心地よい“From Drummer To Driver”(Astralwerk盤に収録)でアルバムは幕を閉じます。全編に渡ってアレクシアの美しく色気はあるが辛気臭いヴォーカルと、隙間を活かしたシンプルなトラックの美しくねじれた融合という初期ホットチップの黄金律が本作では堪能できます。

アー写を見て頂けると分かるのですが、まさにウィーザーの系譜を感じさせるナードな佇まい(アレクシアのルックスはリヴァース・クオモにそっくりだと思うのですがいかがでしょう?)の彼らのアルバムからは、「うだつの上がらない青年たちの冴えない日常」がとてもダメダメに美しくソウルフルに描かれており、同様にひねりが効きつつもアッパーにはじけたセカンドからは得ることのできない大事な負け犬感がハートを遠慮がちに鷲掴みにするのであります。それは『Weezer』から非常にぶっちゃけてしまった『Pinkerton』に移行するときに失ってしまったものと同じなんじゃないかなと思うんです。

キャッチーで分かり易くなったセカンドよりも玄人好みのするファーストですが、このアルバム、真夜中に聴いたりするとエラく染みます。もう冬ですが、これも秋の夜長にぴったりと言えるアンニュイな名作と言えるでしょう。物思いに耽りたいダメ人間のサウンドトラック。是非お試しあれ。