Home Video/No Certain Night Or Mornig(2006年10月3日発売/Defend Music)

yuzurusato2006-12-19


ニューオリンズ出身であり、現在はニューヨークを拠点として活動しているデイヴィッド・グロスとコリン・ラフィーノによるエレクトロ・デュオ、ホーム・ビデオのデビュー・アルバムです。以前はWarpに所属し、シングルをリリースしていたこともあって記憶に残っている方も多いかもしれません。で、これが本当に本当に実に実に素晴らしいデビュー・アルバム。ちなみにスパルディング・ロックウェルやA.R.E.ウェポンズなどをリリースするDefend Musicからになります。

Warp時代よりもすっきりとポップに仕上がったサウンドは大雑多にいってしまうとトム・ヨークやインターポールあたりを思わせるアンニュイなヴォーカルに、ニュー・オーダームームあたりのギター・サウンドを活かしたラフなタッチで繊細さを表現したメロウでエレクトロニックなトラックを掛け合わせたような感じ。レモン・ジェリーロイクソップよりももう少しバンド感を活かした仕上がりになっています。で、いちいちどの曲もメロディが素晴らしい。トム・ヨークのソロ・アルバムに質感がとても近いですが、敢えてメロディを抑制/解体している節もある(これはレディオヘッドでもそう)トム・ヨークよりも歌えるアンニュイなメロディという点ではこのホーム・ビデオの方が素晴らしいと感じます。

ブレイク前のタメと繊細なシンセの味付けが心地よくドライブしていく“Sleep Sweet”。バタバタしたリズムと広がるようなエフェクトを施したヴォーカルが暗い水面を波立たせていくような“Penguin”。チープなエレクトロビートと飛び音の中でバーナード・サムナーのギターを思わせる薄いギターがさざめく“Superluminal”。端正なダンス・トラックを物憂げなヴォーカルが絡み合う“That You Might”。軽めのブレイクビーツになだらかなシンセとヴォーカルがリラックスしたムードを醸し出す“Gas Tank”。レディオヘッド“Where I End And You Begin”“Sit Down, Stand Up”を思わせる攻撃的なエレクトロ“Confession Of A Time Traveler”。“Idioteque”をまったりとしたエレクトロへとアレンジしたような“Pidpunk”。コンパクトにまとまったトラックによる全10曲(隠しトラックあり)。助長になりがちな最近のアルバムとは異なり短めな構成ながら飽きのこない絶妙の温度感と練られた楽曲は素晴らしい余韻を残しながら、アルバムのプレイボタンを再び押すようにしむけてくれます。個人的な考えですが、CDの容量限界まで収録するアルバムってサービス精神旺盛なようで実は全然リスナーフレンドリーではないと思うのですがいかがでしょうか。

話が逸れた。今年はボーダーレスな感覚を持ったアーティストのもはやジャンル分けすら難しいようなアルバムがいっぱい出てまして、そうした作品に魅せられていました。その中で、自分の判定基準というかぶっとい軸になっているのはやはり歌心(ヴォーカルじゃなくてもいい)というところにあったことを再確認した次第。その好例として本作は今年の作品の中では輝きまくっています。夜にこのまったりひんやりしたトーンのアルバムを聴いていると、実に心地よく仕事がはかどるのですよ。