Pharrell/In My Mind(06年7月26日発売/東芝EMI)

yuzurusato2006-09-28


ネリー・ファータドのプロデュースで健在ぶりをアピールしたティンバランド。ナールズ・バークレイやゴリラズで目下のところ恐いものなしの状態のデンジャー・マウス。クリスティーナ・アギレラの“Ain’t No Other Man”で素晴らしすぎる仕事をしたDJプレミアや、サントラでありオリジナル・アルバムでもある『Idlewild』が素晴らしいことになっているアウトキャストなど、他ジャンルを取り込みながら他ジャンルに強い影響を与えているヒップホップ。今、すんごく面白いです。僕はダンス・ミュージックを聴くことが多いのですが、数年前からダンス・シーンとのクロスオーバーがより盛んになっていることもあり、非常に興味深く楽しんでいます。

さて、優れたプロデューサーが次々と良質な作品を世に送る中で、N.E.R.D.ネプチューンズで活躍する他、ファッション・ブランドも手掛けるなど、勢力的な活動をしているファレル・ウィリアムスがソロ・アルバム『In My Mind』をリリースしました。延期を重ね、急に発売が決まったこともあり、ドタバタした中でリリースされた印象があります。

UKロックに近いニュー・ウェイヴ的なムードも感じられたN.E.R.D.や『The Neptunes Present... Clones』収録の名曲“Frontin’”など、ユニークで実験的なビートやシンセ使いとは裏腹に、ファレルの根底にはとてもスマートかつエレガントなソウル・マナーがあります。こうした部分が本作でも存分に発揮されていて、ヒップホップ・リスナー以外も巻き込む牽引力となっているように感じます。

カニエ・ウェスト“Touch The Sky”を彷彿させるダイナミックなシンセの突き抜けるような解放感が印象的な“How Does It Feel?”。ドラムロールと伸びやかなシンセが広がるブレイクがやたらカッコいい“Best Friend”。ファミコンみたいなチープなシンセとビートの重ね方が面白い“Keep It Playa”。シンフォニックなシンセのメロディと絹のようにしなやかなファレルのヴォーカルが楽しめる“That Girl”。“Frotin’”をアップリフティングにしたようなメロウチューン“Angel”は個人的には本作のベスト・トラック。シカゴハウスや昔のヒップホップで使われていたエレクトロな音色と、温かい浮遊感のあるヴォーカルの組み合わせが意表を突く“Take It Off(Dim The Lights)”。エレクトロ色全開の“Baby”。コミカルなシンセと上品なシンセの組み合わせと昔のヴォーカル・グループっぽい粋なサビが合唱したくなる“Number One”。分厚いビートとハモンドの音色から突如民族調のチャントが挿入される“Skateboard P Present; Show You How To Hustle”。日本的な音階がループされる“Swagger International”といい曲が揃っているのも高感度大です。

例えばラップがモノトーンな時はシンセがメロディを、ウワ音が少ない時はビートで上手に音色やユニークさを、シンプルなビートには上質な歌声をといった感じで、巧みにそれぞれのパートが補完し合い、一定ラインの聴き易さをキープしている。それに加えてビートやシンセ、サンプリング、音色がいちいち面白い組み合わせを見せてくれる。この2つを平行して行なえているところにファレルの素晴らしいセンスを感じます。ラップの内容はここでは省略しますが、ラップの内容が分からなくてもとても楽しめる素敵なアルバムです。

ナールズ・バークレーにおけるデンジャー・マウスや、アウトキャスト、そしてこのファレルと、いずれのプロデューサーもソウル・ミュージックへの強い愛情が感じられる作品を作っています。その中でもファレルのソウルに対するアプローチというのは、あくまで個人的な感想ですが、どこか神聖なものに払う敬意の念のような感じを受けます。音で遊びつつも、サウンドがラフでも、声質とあいまってヴェルヴェットのような上品さとしなやかさを持っている。やんちゃな子が見せる敬虔なる表情。それがファレルの魅力なのかもしれません。