Tilly And The Wall/Bottoms Of Barrels(06年9月20日発売/V2 RECORDS)

yuzurusato2006-09-29


噂のタップダンサーがリズム・セクションを担当するアメリカのネブラスカ州はオハマで結成された5人組バンド、ティリー・アンド・ザ・ウォールのセカンド・アルバムの登場です。ブライト・アイズことコナー・オバーストのレーベル、Team Loveからリリースしておりまして、今作はUKではMoshi Moshi Recordsからのリリースです。ということは筆者の大好物であるホット・チップとレーベルメイトでもあるわけですね。

ジェイミーがパーカッションを担当するだけでなく、ベースが2人、3人がヴォーカルを担当し、メンバー全員がタップ以外のパーカッションを担当しているなど、かなりユニークなバンド構成になっています。

もちろん気になるのは、「タップのリズムって合うの? ねえ、合うの!?」というところでしょう。答えから先に申し上げますと、組み合わせがもたらした大勝利EEEEEEEE!!!!!!!!!といったところでございますですよ、これが。

ジャンボリーでローファイなフォーク・ミュージックをベースに、ジプシー・ミュージックやタンゴやポルカなど、祝祭感満載のエキゾチックなローカル・ミュージックのエッセンスを上手に織り混ぜたサウンドがこのバンドの基本形。そうしたバンドの音に騒々しいタップのリズムやクラップハンドの音は違和感なく溶け込んでます。否、むしろこれぐらいバタついたリズムの方が相性はいいのかもしれません。もちろん踊りながらリズムを切るのがタップダンスですので当然のことながらダンサブル。ライヴもYoutubeで拝見したのですが、目の前でお姉ちゃんがタップを踊り、メンバー全員が陽気に歌い踊るというスタイルでした。賑やかでそれはもう盛り上がらんはずがないわけで。

ヴォーカル/ベースのキアナとジェイミーはパーク・アヴェニューというバンドに元々在籍。ニーリーは元ブライト・アイズのメンバーというキャリアを持っていて、どの曲も非常にしっかりしたメロディがあり、優しさの中にもUKフォーク/ギターポップの影響を思わせる影がほのかに香り、生々しさを感じさせる力強さがあります。流石ブライト・アイズ繋がり、というのはちょっと強引過ぎますかね。でも、例えばちょっと前にもの凄いブレイクしたエモ系のバンドたちにとって、スミスやジョイ・ディヴィジョンなどUKバンドたちの影響は計り知れなかったように、そうしたエッセンスを感じさせるUSインディのバンドの音ってやっぱりとても魅力的だったりするのですよね。

話が逸れました。さて、3週間のレコーディングで生まれたという本作は、瑞々しさでいっぱいの全10曲。“Rainbows in the Dark”は“There She Goes”を『アルプスの少女ハイジ』風にアレンジしたようなこのバンドのオープニングに相応しいナンバー。タンゴ色全開の哀愁のパーティチューン“Bad Education”はロックとは異なる「血の刹那」が込み上げてくるような曲。伸びやかなヴォーカルに耳が吸い込まれていく正統派のフォーク・チューン“Lost Girl”はシンプルなピアノの音色と後ろ髪引きまくりのサビが力強い泣ける曲。ちょっとカーペンターズっぽいメロディがデレックの低音ヴォーカルと心地よい相性を見せる“Love Song”。アルバム最大のパーティ・チューン“Sing Songs Along”は全員で合唱したくなるようなほがらかで力強い曲。90年代初期や80年代後期のUKギターポップを思わせる清涼感溢れる“Black and Blue”。カントリー&ウェスタンな“Brave Day”。他のバンドでは普通に使われている打ち込みとシンセもこのバンドで使われるととてもフレッシュに聴こえる“The Freest Man”。そしてラストの“Coughing Colors”はせり上がっていくコード、神聖なムードを感じさせるコーラス、穏やかで切なくて力強いデレックのヴォーカルが厳かに響き渡る締めに相応しい美しいピアノ弾き語りの曲。今気づいたけどデレックのヴォーカルはそのナチュラルな倦怠感を感じさせるところがちょっとブラーのデーモンに似てるかもしれません。

エレクトロニックなダンス・ミュージックとはまた異なったナチュラルな力強さとふわっと体温が上がるような高揚感。メロディに哀愁が影の部分がしっかりと表現されていて、それがポジティヴなメロディに転じていく様が、なんだかとてもいい気分にさせてくれるアルバムです。ポーグスのような酒場で死ぬ程盛り上がりそうな朗らかで、でも切なくて、温かくなれる素敵なアルバム。ギターポップファンはもちろんのこと、ちょっとエキゾな民族系に興味がある方にも、またダンサブルな音楽が好きな方にも是非是非オススメしたい音楽。もうすっかり秋の気配が漂っていますが、季節は冬を通り越し、ふきのとうの芽を愛でるような春の訪れを感じさせるアルバムでございます。