Various/The World Is Gone(06年10月25日発売/Waner/Beggars Japan)

yuzurusato2006-09-14


アナログ・シングルがネット通販でバカ売れし、レディオヘッドトム・ヨークが大のお気に入りという触れ込みもあり、人気沸騰中のVarious(記号のような感じっぽいので英字表記にします。ちなみに海外ではVariousで検索するといつまでたっても辿り着かないので、Various Productionsという形で表記を取っているみたいです)のアルバムがリリースです。海外では既に7月にリリースされています。

これまでに4枚の7インチ・シングルと4枚の12インチのシングルをリリースするのみで、オフィシャルのHPでもアーティストの詳細などは明らかにされていません。イアンとアダムという人物がやっているとほのめかしてはいますが、そこら辺の覆面ユニット具合は、出オチの感すらあったゴリラズに比べかなり徹底されているようです。

サウンドIDMエレクトロニカ、クリックを経由したドープなダウンビート、唸るようなベースにダークなウワものと歌が乗るというもの。マッシヴ・アタックU.N.K.L.E.などのトリップホップサウンドの現代的解釈と言えばしっくりくるでしょうか。ダブ/レゲエからの影響も強く、歌ものへの強い意識やエレクトロニックな味付け、映画音楽的なアプローチと巧みに溶け合わせるサウンド・プロダクションの異様なクオリティの高さは新人さんとは思えない仕上がりです。

アルバムの聞くと三つの軸があるうようです。ひとつは歌心をフィーチャーしたトラック。アコースティック・ギターアルペジオと女性ヴォーカル囁くような歌声が美しい“Deadman”や東欧を思わせるエキゾなアコースティック・チューン“Fly”。ダイドを少しブルージーにしたような凛としたヴォーカルとスモーキーな音響とエレクトロニックな味付けが絶妙なバランスで構築された“Circle Of Sorrow”がそう。

もうひとつの軸は攻撃的なトラック。フィードバックやノイズ、歪んだスクラッチが唸りを上げて襲いかかる“The World Is Gone”。粒の立った強力なビート、神経を圧迫するような“Thunk”。たたみかけるようなビートと不穏なメロディのシンセがとぐろを巻いている“Soho”。ソリッドな打ち込みと脳にゲジゲジを這わせるような歪なシンセがビリビリ身体を波打たせてくれる“Don’t Ask”などです。

そしてもうひとつの軸は上のふたつの要素を掛け合わせたようなトラック。最近のマッシヴを思わせる吸着力のありそうなムチっとしたビートによるダブステップ、奥行きのある音響と緊迫感のあるベースがホラーコアなムードを演出する“Sweetness”。美しいヴォーカルとスクラッチや緊迫感のあるシンセや飛び音でビルドアップしていく荘厳な“Today”。退廃的なダウンビートに切ない男性ヴォーカルが響き渡る“Sir”など。ここら辺がこのユニットの打ち出したいところなのかも。個人的には聴き手を持っていく展開力が素晴らしい“Sweetness”がグッときました。歌心を併せ持ちながら非常にイルなサウンドトム・ヨークが好きなのもなんだか納得です。

それにしても、もうトリップホップが戻ってきているのかと思うと時間の早さにビックリします。とは言え『Protection』からもう12年。『Mezzanine』から9年なんですよね。今シーンではプリミティヴなダンス・ミュージックが勢いを取り戻しはじめてきていていますが、当時ビッグビート表裏一体のような関係だったトリップホップ的なサウンドが再び戻ってきたのは、ある種のお導きなのかもしれません。そのひんやりとしたサウンド・デザインの奥からマグマのような熱さを吹きさらすVarious。オススメです。