Tim Deluxe/Ego Death(06年9月27日発売/Beat Records)

yuzurusato2006-09-05


2004年に取材でマイアミのWMCに行った時に、ファレルとディープ・ディッシュが談笑しているのを目撃しまして、こうしたところでボーダーレスな興味深い交流が生まれているんだなあと思ったのを覚えています。

さて、現在ダンス・シーンを盛り上げているエレクトロは、ヒップホップ・シーンやポップ・シーンにも波及しておりまして、例えばジャスティン・ティンバーレイクネリー・ファータドなどの新作にもその影響が感じられます。

もちろんテクノ/ハウス・シーンの多くのアーティストたちにも強い影響を与えているのは言うまでもなく、ラテン・フレイバー全開の前作『The Little Ginger Club Kid』で大ブレイクを果たしたティム・デラックスの最新作『Ego Death』もエレクトロの影響が色濃く出たアルバムとなりました。

話を聴くと、なんでもティムはツアー頑張り過ぎたせいで一時期ダンス・ミュージックの新譜をチェックするのを怠っていたよう。そんな彼を再びダンス・ミュージックへと振り向かせたのがスウェーデンのエレクトロ、コズミック・ハウス系のアーティスト、Get PhysicalやPoker Flatなどのドイツのミニマル・ミュージックだったそうです。また同時に90'sリヴァイヴァルの流れにも触発されたと発言しています。

コズミック・ハウス的なキラキラしたディープなグルーヴが活きた“Rubber Seduction”。ピキピキしたシンセの音の響きでハメていく“U Got Tha Touch”や“Let The Beats Roll”(オーディオ・ブーリーズが参加)。トラッシーなギターリフとタメの効いたブレイクが特大の爆発力をもたらす“I Don't Care”。“Choose Something Like A Star”直系の90年代テクノのクロスオーバーな魅力を感じさせるドラマチックな“Espoo's Rose”など、そうした近年のシーンの熱気はアルバムの随所から感じることができます。そこに引っかかりのいいメロディと、ファンキーなビートを巧みに織り込むことで、ティム・デラックスらしいポップな作品に昇華されました。シンセを多用したディープなプロダクションがベースですが、間口の広い作風に仕上げているのは流石のひと言です。

また今作ではマッシヴ・アタックを思わせるような荘厳なダウンテンポ・チューン“Egodeath”や、ブライトなアコギの響きが優しい歌心溢れるポップなナンバー“D.O.A.”とダンストラック以外の曲でもしっかりとした主張が感じられます。特に本人のお気に入りだという“D.O.A.”はとてもソウルフルな曲で、ティムのソングライティングの成長を如実に感じさせる曲に仕上がっています。

録音方法もハウスっぽくない音を見つけるために、ギター、ドラム、ベースによる3ピースのバンドによるセッションから素材を録音し、組み立てていく手法をとるなど様々な試みがなされていて、四つ打ちでも単調さは感じさせません。

より大きな場所で爆発しそうな特大のブレイクとトリッピーな音。また車の中でも聴けるようなポップでパーソナルな色合いを持ったトラック。そんな相反しそうな要素が入り混じる実にユニークな魅力に満ちたアルバム。これからのサウンドの広がりをも示唆するティム・デラックスのアーティストとしての野心が全開になった1枚です。まあ、ジャケットは違う意味でチャレンジ精神に溢れているような気がしますが、これもいかにも彼らしい。長く楽しめるアルバムなので是非お試しあれ。