Basement Jaxx/Crazy Ich Radio(06年9月6日発売/WARNER/Beggars Japan)

yuzurusato2006-09-01


今年、ベースメント・ジャックスのレーベル、Atlantic Jaxxから『Gypsy Beats And Balkan Bangers』というコンピ盤がリリースされました。これはタイトル通り、東ヨーロッパのローカル・ミュージックであるジプシー/バルカン・ミュージックをDJラス・ジョーンズとフィーリックス・バクストンがコンパイルしたアルバムで、アコーディオンやホーンが醸し出すエキゾチックな雰囲気がたまらない内容になっています。

元々ベースメント・ジャックスにはファースト・アルバム『Remedy』の頃からこうした民族音楽の要素はふんだんに盛り込まれていたのですが、『Kish Kash』では多彩なゲストを起用したことと、サウンド自体がかなりハイファイな仕上がりだったこともあって、その要素がやや後退していた印象がありました(本人に話を訊いたら、なんでも前作はプロトゥールズの使い方に慣れてないせいでそのようなサウンドになったのだとか)。そのため『Gypsy Beats And Balkan Bangers』のリリースは、ニュー・アルバムが初期の彼らに見られたエキゾでカラフルな作品への回帰を示唆しているようで、新作の期待を大いに煽ってくれたのでした。

さて、新作『Crazy Ich Radio』は、異様にド派手なストリングスとオペラを彷彿とさせる壮絶なコーラスが吹き荒れる“Intro”でいかにもジャックスらしい豪快な前振りを見せつつ、前述の期待に正面から応えたローカル・ビート満載のしなやかな野性が活きた実にポップな作品になりました。

ファースト・シングル“Hush Boy”はいわゆるジャックス印のブレイクがキマりまくったポップなダンス・チューンですがこれは割とスタンダードな感じ。ちょっと安パイっぽい印象です。んが、アルバムにはシングル以上に強力で魅力的な曲が満載なのです。

バンジョーとメロウで美しいシンセが夜をキラキラと彩る“Take Me Back To Your House”。バルカン・ビート・ボックスの“Bulgarian Chicks”からサンプリングしたプップク吹かれるホーンとハウスビートが見事に融合した、お祭り感覚満載の“Hey You!”。ジャズっぽいリズムと哀愁漂うメロディの“On The Train”。バイレ・ファンキの影響を受けていそうなトライバルなリズムと、サビのブラジルやカリブっぽいサウンドが祝祭感を煽る“Run 4 Cover”。掻き鳴らされるアコースティックギターと荘厳なムードが漂うシンセがドラマチックな展開を見せる“Lights Go Down”。いずれも一筋縄ではいかないけれど、一度聴いたら忘れられないトラックばかりです。

本作のキモはよりしなやかになった多彩なビートと、前作を遥かに凌駕するクオリティのメロディでしょう。特にこれまでのアルバムと比べても喜怒哀楽を表現するメロディのバリエーションと展開力は本当に素晴らしいのひと言。いずれにしてもこれまでのジャックスのアルバムの中でも最も歌えるアルバムであり、伸び伸びと弾けるビートがリラックスした雰囲気の中で楽しめる作品となりました。

サイモン「いま、世界を見渡してもいっぱいあちこち緊張感があるから、なんか少なくとも音楽だけは癒される音楽を聴きたいと思ったんだよね」

フィーリックス「今結構エレクトロニカってまあ流行ってるものはミニマルでよりダークな方向にいってるんだけど、だったら自分達は逆にマキシマルで(笑)、より明るい方向にいこうかなって。暗い中に光をと」

ジャックスのこうした反骨心や発想が彼らのアルバムを常に刺激的で楽しいものにしているのでしょう。日本では人気の面でケミカル・ブラザーズダフト・パンクのようなブレイクを果たしているとは言い難いですが、現在の脂の乗り切った彼らを聴き逃すのはあまりにもったいない! まるで真夜中のサーカスを思わせるようなドキドキした不思議なムードに満ちた最高に楽しいアルバム。是非お手にとってみてはいかがでしょう?