Agoria/The Green Armchair(2006年10月16日発売/PIAS)

yuzurusato2006-11-03


ジェイムス・ホルデンと並び、新世代プロデューサーの期待の星として注目を集めているフランス出身のSebastien Devaud(正直後ろの読み方が分からん)のソロユニットであるアゴリアの待望のニュー・アルバムです。そしてこのアルバム『The Green Armchair』をはじめとする彼の作品にも間違いなくマイブラ、ライド以降のサイケデリア、モグワイ以降のエクスペリメンタルなロックの影響が色濃く反映されています。ちなみに最新のミックスCD『Cute & Cult』ではイギー・ポップレディオヘッドなんかもミックスされており、これまたエクレクティックなスタイルを披露した素晴らしい作品になっておりますので、是非聴いてみて下さい。

2001年にリリースされた“La 11eme Marche”や2002年リリースの“Sky Is Clear”で大きな評価を獲得(どちらもUnderwaterのミックスCDのピークを飾っていました)し、2003年のアルバム『Blossom』がテクノ・シーンから大絶賛を浴び、彼の名前は一気に広がって行きます。

個人的には多彩なサウンドが多かった故にやや器用貧乏な感が『Blossom』にはあったのですが、今作『The Green Armchair』では音がかなりシェイプされたせいか全体的にビシっと一本ぶっとい軸のようなものができていまして、アルバムとしてしっかり聴き応えのある内容になっています。

シングルにもなっておりジェイムス・ホルデンやロラン・ガルニエもヘビーローテーション中の直下型ディストーション・メロディック・テクノ “Code 1026”。Border Communityからリリースされてもおかしくないクリック以降のトランス・チューン“Europa”。メタリックなブロークンビーツとシンセの響きが美しい“Cecile”。音歪みまくりの凶暴なエレクトロトラック“Like A Bull”。アルバムのハイライトと呼ぶに相応しいデトロイト・テクノとヴァイオリンの超絶に美しい融合“Les Violons Ivres”。そしてエイフェックスあたりの影響を思わせる美しい“Wrong Line”といわゆるクラブユースなトラックは冴えに冴えまくった曲が満載。

ディストーションを駆使したダークなダウンテンポ“Baboul Hair Cuttin”。ニナ・チェリー参加のピアノの荘厳な響きが印象的な、マッシヴ・アタックあたりと共振しそうなディープ・チューン“Million Miles”。スカルドがヴォーカルで参加したホラーコアな“Your Inner Kiss”。バウハウスのピーター・マーフィーがかなり朗々に歌い上げるダークでゴシックなロック・チューン“Edenbridge”。プロディジーの『Always Outnumber, Never Outgunned』の曲をクリック以降の手法で表現した感じの“Lips On Fire”(プリンセス・スーパースターが参加。引っ張りだこですねえ。彼女)と、クラブトラック以外の楽曲も前作よりもしっかりいい曲に仕上がっています。

ある部分では同じ方向を向いているような感じのジェイムスとアゴリアですが、異なるのはジェイムスがエレクトロニック・ミュージックという楽曲の構造から揺さぶりをかけているのに対して、アゴリアの方はいい意味で腰が軽くてポップ。非常にストレートな楽曲を指向しているということです。元々親がオペラ歌手をやっていることもあって、彼の紡ぐメロディもアンサンブルもクラシックの影響下にあります。また、大好きなデトロイトテクノやジャズの影響もそのメロディをさらにドラマチックにしていると言えるでしょう。その象徴的な楽曲が“Les Violons Ivres”に集約されているのではないでしょうか。

DJもジェイムスに比べ、全体的にかなりストレートかつトランシーなアプローチで挑むアゴリア。フロアで浴びたら涙に濡れそうです。そんな彼の魅力が凝縮された本作、是非一度体験してみてはいかがでしょうか? それにしても本当に最近のテクノ・シーンは面白くなってきました。今のフロアから目を離しちゃいかんよね。そんな声が本作をはじめとする多くのアーティストたちの作品から聴こえてくるのです。

Lambchop/Damaged(2006年8月22日発売/Marge Records)

yuzurusato2006-11-02


本ページでも取り上げたニーコ・ケースやグリズリー・ベアーの他、ジム・オルークがプロデュースしたベス・オートンのアルバム。そしてド傑作としか言い様のないゼロ7の『The Garden』などなど、今年はアコースティック系のアルバムが大豊作。しかも、ポストロックやエレクトロニック・ミュージックを通過している人たちによるアルバムが素晴らしい出来だというところに、90年代って無駄じゃなかったなあとなんだか感慨深くなる筆者でございます(ジェイムス・ホルデンのレビューと若干テーマが被ってる?)。

さて、カート・ワグナー率いるナッシュビル出身のオルタナ・カントリー・多人数バンド、ラムチョップの最新作です。メンバーは不定形で多い時は15人くらいになります。今作はスーパーチャンクのレーベル、Mergeからのリリースになります。

このバンドもポストロック界隈やダンス・ミュージック・シーンからの評価が高くSkintの名物バンド、ローフィディリティ・オールスターズのDJミックス・アルバムやモーチーバの『Back To Mine』(アーティストの影響を受けた音楽をコンパイルするシリーズ。フレイミング・リップスやアンダーワールドなども監修に参加)に収録されるなど、アーティスト・オブ・アーティストとしてあらゆるジャンルから賞賛を浴びています。

今年のアコースティック系のアルバムの特色として、ポストロックやエレクトロニック・ミュージックを通過しつつも、非常にストレートなサウンド・フォルムで仕上げているというのが言えると思うのですが、今作もその流れにある原点回帰的な、あるいは解体の季節を経て迎えた「実り」のフォーク・ミュージックが鳴らされています。

素晴らしい逆回転のフェイドインから爪弾かれるギターのアルペジオが感動的な“Paperback Bible”。夜のしじまに似合いそうなピアノとストリングスの豊潤な音が巧みな音処理によって響き渡る“Prepared”。ピアノとエレクトリック・ギターの絡み、そしてカートの低音のヴォーカルが素晴らしい“Day Without Glasses”。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの“Candy Says”をもう少しメロウにした感じの“Beers Before The Barbican”。まったりとした泣きのカントリー・ワルツ“I Would Have Waited Here All Day”。アルバム中最もロックっぽいダイナミズムで鳴らされる“Crackers”。ストリングスが素晴らしい“Fear”。おちついたテンポのビートとストリングスが徐々に上昇していく穏やかな高揚感に満ちた“Short”。カートのヴォーカル一段と朗々と響き渡るエンディングに相応しい感動的な“Decline Of Country And Western Civilization”。いずれの曲も実にシンプルな響きながら様々な音が細やかなうねりを作っていて、アルバムの穏やかながら力強いダイナミズムとなっています。とても静か。とても穏やか。でも胃の腑からぐっと熱いものが込み上げてきそうなしなやかな強さに満ちた作品です。個人的にはヨ・ラ・テンゴ“And Then Nothing Turned Itself Inside-Out”やニール・ヤングの“Harvest Moon”に匹敵する「夜のアルバム」です。

痛みや孤独をそのまま表現する作品も大好きなんですが、本作のように痛みや悲しみをぐっと奥にしまい込んで力強く歩を進めるような作品がもっと好きです。毛穴から悲しみがアロマとなって香る本作。そこにはリアルという行間がいっぱい散りばめられていて、そこに耳を傾ける楽しさがあるような気がします。『Damaged』には音と音以外のとても豊かなアンサンブルが広がっているのです。

Holden./The Idiots Are Winning(11月24日発売/CISCO)

yuzurusato2006-10-28


再び訪れたクロスオーバー時代の先導者、轟音サイケ真の継承者、あるいは次世代エイフェックス・ツインなどなど、とにかく様々なアーティストから様々な賛辞(真ん中のは私が勝手につけました)を受け、来る度に10馬身は過去の自分に差をつける凄まじい成長の早さとスキルの高いDJを見せつけ、やっぱり様々なフロアに訪れた人々に衝撃を与え、やっぱり色んな方から様々な賛辞を受ける現在26歳の若手プロデューサー、James Holdenの10曲入りEPの登場です。

既に海外のメディアでもアルバムとしてインフォメーションが回っているのですが、JamesのHPでは「finish the ep!」と書かれていましたし、ディストリビューションを請け負っているamatoの資料にも「もうアルバムって言っちゃってるメディアおるんやけど、ちゃうからね、デビュー・アーティスト・アルバムちゃうからね」と太字で明記されていました。という訳で10曲入りのEPです。4649!!!!

さてEPの内容ですが、今回はこれまでDJで使っている自身の曲の中で、リリースしていなかったものをまとめて出し切ったといった感じでしょうか。なんとなくですが、このEPをきっかけに彼自身もアルバムへ本格的に挑んでいくんじゃなかろうか。そんな感じがいたします。

05年あたりから自身のDJでも必ずといっていいほどプレイしている重厚でドラマチックなシークエンスが生き物のような動きで爆発していく“Lump”。“Lump”が猛獣ならこちらは北の大地を思わせるひんやりとしたなだらかで壮大なサウンド・スケープを誇る“10101”。スカスカのビートとシンセが素っ頓狂に絡みながら濁流のようなうねりを見せる“Corduroy”。そして“Chump”あるいは“Nintendo Track”と仮タイトルが付けられていた“Idiot”は、ファミコンっぽいチープなシンセと軋むようなサブベースとの組み合わせで緊迫した展開を見せる重奏的なメロディ使いが印象的なトラック。“Flute”はまさにモグワイやM83直系のノイズと淡いビートを用いた超攻撃的なアンビエント。“Lumpette”は“Lump”のアカペラ。“Idiot Clapsolo”はDJでも多用されている“Idiot”のビートツール。“Quiet Drumming Interlude”“Quiet Drumming”はモノトーンなビートとノイズで構成された小曲。“Intentionally Left Blank”はタイトル通りの無音のトラックです。

いずれの曲も通常のダンストラックやあるいはロックやポップスが見せる「こうきてああきてブレイク入ってドーーン!」というよりは、そういう常套句を解体しつつ、いかに聴き手をドラマチックな所へと運ぶかという試みがなされています。そのせいか、彼のDJ同様緩急のタイミングが実に強烈で、かなり「連れていかれる」仕上がりになっています。その上どの曲もいちいち気が狂っていて大変高感度が高い曲が満載です。

元々初期はMogwaiみたいなサウンドにクラブで使えるトラックを混ぜたような感じの曲を目指していたJamesですが、今回のEPも基本的にはそうした流れにある曲であると言えるでしょう。時空をねじ曲げるような重力を感じさせるサウンドの質量。ギリギリとためて爆発する展開。そしてノイズの高まり。サイケデリックなノイズというと、最近ネオ・シューゲイザーみたいな括りで色んなバンドが出ていますが、個人的にはこうしてテクノ、あるいはエレクトロニカを通過して鳴らされるという点に僕はすごくリアリティと説得力を感じるのです。だって例えば『Loveless』というアルバムは当時のダンス・カルチャーの自由な空気をたっぷり吸ったところから出てきている訳ですし、Mogwaiだってテクノを通過したからこそのインストゥルメンタルなロックな訳で、ああしたポスト・ロック、あるいはエクスペリメンタルなロックをラップトップ世代が鳴らすというのは、むしろ遅過ぎたくらいじゃないかと思うほど必然性があると思うのです。

04年の頃は「Richie HawtinとSashaとSven Vathを合わせたようなDJだなあ」なんて思っておりましたが、最近はポストロックやエレクトロニカをジャンルレスにガンガン取り入れ、Mogwai“Like Herod”ばりの怒髪天を衝くノイズでフロアを狂気の坩堝にたたき落とす完全にオリジナルなスタイルを確立するなど、さらなる進化を遂げているJames(そのスタイルのすごさは最新のミックス『At The Controls』で垣間見ることができます)。そのプレイの重要な部分を担う楽曲でもあり、単体としても非常に聴き応えのあるEP、是非楽しんでいただければと思います。

Greenskeepers/Polo Club(2006年10月25日発売/KSR)

yuzurusato2006-10-20


シカゴ・アンダーグラウンド・シーンの秘境にして、今最もミステリアスなチンドン屋、あるいは抱腹絶倒のど変態バンド、グリーンスキーパースのニュー・アルバムです。しかもディスク2にはバンドの中心人物でありDJのJames Curdによる、本作の音源を使ったミックスが収録というなんとも嬉しい内容。昨年の年始にageHaで行なわれました「Hump 05」というイベントがありまして、そこで彼のDJを見たのですが。ガッチリモッコリな最高のDJでその日のベストというどファンキーっぷりでございました。

15歳の頃からDJのキャリアを持つJamesとパンク・バンドに所属していたNick Maurerが98年に結成されたのがグリーンスキーパース(その後メンバーが加入し現在は4人のバンドに)。メンバーの共感する音楽がデスメタル、ロック、パンクという「なんでダンスやってるの?」な趣味の上、基本コンセプトがダンスフロアにユニークな要素を取り入れることという誠に見事なヒネくれっぷり。それだけにいわゆるハウスから逸脱したような曲も多く、その自由すぎるスタンスのせいか、なかなか日本のフロアラバーたちの認知が浸透していないような気もいたします。

セカンド・アルバムである前作『Pleech』はファースト『Ziggy Franklen Radio Show』に比べ、メロディックなキーボードを中心としたメロウ&ディープな曲の多い洗練された内容でしたが、本作『Polo Club』はギターがより多くフィーチャーされており、かなりやんちゃな印象。それに伴い直球度も増しているのですが変態度も倍増。全くもって手強いヤツらです。うほっ。

「Hey Mother Fucker!!!!!!」というかけ声と共にド渋なヴォーカルと小気味いいリフがドライヴする“Polo Club”。スミスを彷彿とさせる叙情敵なメロディが素敵な“15 Minutes”。パンキッシュなギターとどこか倒錯的なヴォーカルが怪し気な“Indecision”。ファンキーなベースと怠惰なヴォーカルの組み合わせがダルさ倍増な“NY Lady”。ドアーズに極太のビートとダビーなエフェクトをかけたような“I Want A New Drug”。まるで祭司が悩める子羊たちに朗々と神を教えを説いたようなヴォーカルとゴリゴリのギターが怪しさ満載の“A Week Ago”。GKらしいファンキーなディープハウス“Coconuts”“Crimes”。シカゴグルーヴとギターロックのイルでユーモアたっぷりの融合“Alphabet Man”。カットアップしたヴォイスとソウルフルな鍵盤の響き、タフなグルーヴががっちりとフロアをはめる“Martini Lunches”。ちょっとエレクトロの匂いを感じさせるセクシーなヴォーカル・ハウス“Lights Of Fire”。60年代のロックバラードを思わせる美しくも妖しい“Cowboy”。どの曲も非常にポップな歌心があるのにも拘らず、いちいちカラっとしないのが最高。もはや彼らの業としか思えません。妖しい、怪しい、倒錯。さっきからそんな単語ばっかり使って形容していますが、これは彼らにとっては褒め言葉。酔拳が飲めば飲む程強くなるように、GKは怪しければ妖しくなるほど、そのグルーヴに艶と匂いが出てくるのです。

グリーンスキーパースが面白いのはカルトたるべき非常にマニアックでミステリアスな音の作りをしているのに、その構成しているパーツ、つまり声ネタ、リフ、歌、リズムなどが非常にキャッチーだということ。つまり、本当にカルトになって沈んでいくバンドではなく、シーンの中で光るカルト・バンドなのです。ので、その音を試す前に黙殺されるのはすごく残念。是非お試しして下さい。クセになる要素があっちゃこっちゃに散らばってます。

さて、一方のミックスの方はまさに極上のシカゴ・グルーヴが爆発。ハネッハネのファンキー・ビートにユニークなウワ音。上がらず下がらずひたすら跳ねる。永遠に踊らされそうなJamesの辛抱たまらん現場の音が見事に再現。家でデカい音で鳴らしてみて下さい。末代まで祟りそうなそのグルーヴの凶悪さが存分に味わえることでしょう。

そう言えば、マイアミで行なわれたOMレコーズの10周年パーティで幸運にも彼らのライヴセットを見ることが出来たのですが、こちらもユーモア溢れる非常にファンキーなライヴで、会場に訪れた何千人のお客さんがアホみたいに盛り上がっていました。そしてラストにプレイした“Lotion”でヴォーカルに喜々としてローションをかけてはしゃぐJames。ゲラゲラ笑いながら踊るメンバー。会場はなんだか分からないけど大盛り上がりという非常に「らしい」光景でございました。こういうアホな人たちは大好きです。是非とも日本でもライヴを実現させて欲しいと願わずにはいられません。

Lily Allen/LDN Remix(2006年9月25日発売/Regal)

yuzurusato2006-10-14


マイスペースから瞬く間にスター街道まっしぐら。みんな大好きリリィ・アレン嬢のリミックス・シングルです。ええ、DJもたまにやるのでこの際12インチもやっちまいます。ただ、今回はリリイ嬢のお話ではなく、リミックスを手掛けているスウィッチについて触れてみたいなと思います。なぜスウィッチかというと、彼の最近のオリジナル、リミックスの仕事が尋常じゃなく素晴らしいからです。

スウィッチは元々デイヴ・テイラーとトレヴァー・ラヴィズの2人組のダンス・ユニットで、現在はデイヴ・テイラーのソロ・ユニットとして活動しています。ちなみにデイヴ・テイラーはスウィッチの他にもソリッド・グルーヴやソリタイアなど、色んなユニットで多彩な活動をしています。

シカゴハウス直系のジャッキン&バウンシーなビートとカットアップした声ネタ、DJスニークを思わせるファンキーなディープ・ハウスっていうのが僕の中のスウィッチのイメージだったんですが、03年にリリースされたケミカル・ブラザーズの“ゲット・ユアセルフ・ハイ”のリミックスでその印象は大きく変わります。エレクトロニカを通過したクリックなリズムをシカゴハウスやカットアップ的な手法とワイルドに組み合わせ、アシッドや歪んだレイヴィーなシンセなどテクノのアグレッシヴな要素を加えたかなり過激でとち狂ったサウンドに。現在はグリッチー・ハウスなんて呼ばれているようですが、このあたりから今に繋がるスウィッチの黄金律が確立したようです。

その後、様々なアーティストのリミックスを手掛けていくんですが、徐々に筋金入りのヒップホップ・フリークだったデイヴのワイルドな素顔が顕著になり過激さに拍車がかかっていきます。そうして生まれたのが昨年リリースされ、今年のWIREでもヘビープレイされていたインクレディブル・ボンゴ・バンドの“Apach”をネタに使った“A Bit Patchy”という訳です。カットアップされたファンキー・ビートに唐突に挿入されるあの有名なフレーズ。ヒップホップとハウス、テクノが非常にダイナミックな融合を果たしたトラックと言えるのではないでしょうか。

今年の彼のDJをチェックするとバイレ・ファンキやジプシー・ビートなど世界各地のローカル・ビートをガンガン取り入れてる様子。その結果が、バイレ・ファンキをカットアップ・ビートに巧みに取り入れたコールドカット“True Skool”のリミックスであり、今回紹介するリリイ・アレン“LDN”のリミックスというわけです。特に後者はカットアップされたリリイ・アレンのふんわりした声やカラフルなレゲエのサウンドとあいまって最高にキャッチーで華やかなパーティ・チューンに仕上がっています。割と無邪気にバイレ・ファンキをそのまま鳴らしてしまういかにもヒップホップの人らしい大胆なアプローチを見せるディプロと、ヨーロッパのダンス・カルチャーが育んだプリミティヴなビートをブラジル産のプリミティヴなビートと組み合わせようとチャレンジするスウィッチ。そういう意味ではスウィッチはベースメント・ジャックスの立ち位置に近い気がします。同じヒップホップを出発点にしながらも、これだけ表現の仕方が違うというのは本当に面白いです。ちなみにディプロはアメリカのミシシッピ出身。デイヴ・テイラーはイギリスのリヴァプール出身。お国柄や文化の違い育った環境というのもあるんでしょうね。

そう言えば、最近バイレ・ファンキを取り上げて欧米のダンス・カルチャーを揶揄するような方もいるみたいですが、それ、ちょっとズレてるんじゃないかなあ。マイアミベースが南下してブラジルのゲットーのダンス・カルチャーと混ざって生まれたバイレ・ファンキ。荒削り、ワイルドでプリミティヴってのは分かりますが、別にそんなダンス・ミュージックは欧米にだってある。肝心要の部分はブラジルのカルチャーが混ざってなんだか面白いものになっちゃったって部分だと思うんです。それってビートを通して感じるカルチャーのギャップの楽しさなんですよね。狭い器量で語らないで広い度量で楽しんでもらいたいところです。

僕は時間があると海外のサイトからミックスを探してダウンロードして楽しんでいるのですが、スウィッチの最近のDJミックスが見つかったのでアドレスをおいときます。これが本当にワイルド・ワイルド・パーティなミックス。まさにやりたい放題です。“A Bit Patchy”も“True Skool”も、もちろんグライムっぽいのからバイレ・ファンキやジプシー・ビートもプレイ。おまけにThe Whoの“Go To The Mirror!”ネタまで飛び出す悶絶鼻血しびれくらげ。嗚呼、なんだか長い文章になってしまってすいません。もうちょっとシンプルに書かねばね。でも、最近ますます調子乗ってるスウィッチ。注目ですよ! 今回は12インチの紹介でしたが、調べたらリリイのHPのダウンロードショップからスウィッチのリミックスがダウンロードできるようです。是非聴いてみて下さい。

http://www.megaupload.com/fr/?d=RNUNTVFL

Marc Houle/Bay Of Figs(2006年9月14日発売/Minus)

yuzurusato2006-10-07


リッチー・ホウティンのレーベルであるMinus所属のアーティスト。ソロだけに及ばずマグダやトニー・ピースらと組んだラン・ストップ・レストアなどでもミニマル・ミュージックのファンたちから間から絶大な信頼を得ているマーク・ホウルのニューアルバムです。で、これがド傑作。

マグダのミックスCD『シーズ・ダンシング・マシーン』にも数曲収録されていますが、ラン・ストップ・レストアでも見せる極上のクリック・チューンで構成されています。

クリックのいい曲を探す時の自分の基準というのはムチっとしたドファンキーかつ分厚いビートの音圧というよりは、それこそリッチー・ホウティンというかプラスティックマン、あるいはダニエル・ベル直系のスカスカした無機質な音圧の中でいかに人を狂わせるかという点。で、本作はまさしくそうした流れの中にある作品だと思います。

ラン・ストップ・レストアでも存分に発揮されている素っ頓狂なシンセフレーズが凄まじい“Edamame”“Lachs”。“Plasticine”と“Krakpot”が合体したような無機質なリズムとシンセフレーズが妖しい上下運動を繰り返す“Bay Of Figs”“Manager”。スッカスカのスネアとコミカルなフレーズのファンクチューン“Stacks & Stacks”。8ビットのゲーム・ミュージックとディスコ・ダブが合体したような“Thirds In Three”。細やかなスネアロールとアシッドなシンセとエフェクトのバランスが素晴らしい“Black Jack 13”。プラスティックが折れたようなリズムが絶妙で、クリックのお手本のような“Fat Cat”。ジェイムス・ホルデンあたりも好んで使いそうなメロウなシンセとビルドアップしていくリズムがかっこいい“Items And Things”。いずれもシンプルの極みと言えるトラックですが、ユーモラスかつリズムの冷たさと温かいファンクのブレンド具合が素晴らしく、存外にキャッチーなアルバムです。

エレクトロニカ通過以降の耳にビートの説得力を持たせたのがクリックだとするのであれば、クリック以前、あるいはテクノ黎明期の頃の研ぎ澄まされていない荒いビートには、生音とはまた異なる摩擦係数の高い野蛮な魅力があるわけで。で、マーク・ホウルのアルバムにはそうした新旧のビートやシンセが入り混じり素晴らしい引き算の美学の元、表現されているのです。

黎明期とは違い機材の大幅な進歩のない今、こうしたミニマル・ミュージックの最先端を行くMinusの代表的なアーティストが実験性と楽曲性をしっかり融合させたトラックを作っているところにはやっぱり心強さを覚えます。プラスティックマン『Sheet One』『Musik』あたりがお好きな方に是非ともオススメしたい1枚です。

Tilly And The Wall/Bottoms Of Barrels(06年9月20日発売/V2 RECORDS)

yuzurusato2006-09-29


噂のタップダンサーがリズム・セクションを担当するアメリカのネブラスカ州はオハマで結成された5人組バンド、ティリー・アンド・ザ・ウォールのセカンド・アルバムの登場です。ブライト・アイズことコナー・オバーストのレーベル、Team Loveからリリースしておりまして、今作はUKではMoshi Moshi Recordsからのリリースです。ということは筆者の大好物であるホット・チップとレーベルメイトでもあるわけですね。

ジェイミーがパーカッションを担当するだけでなく、ベースが2人、3人がヴォーカルを担当し、メンバー全員がタップ以外のパーカッションを担当しているなど、かなりユニークなバンド構成になっています。

もちろん気になるのは、「タップのリズムって合うの? ねえ、合うの!?」というところでしょう。答えから先に申し上げますと、組み合わせがもたらした大勝利EEEEEEEE!!!!!!!!!といったところでございますですよ、これが。

ジャンボリーでローファイなフォーク・ミュージックをベースに、ジプシー・ミュージックやタンゴやポルカなど、祝祭感満載のエキゾチックなローカル・ミュージックのエッセンスを上手に織り混ぜたサウンドがこのバンドの基本形。そうしたバンドの音に騒々しいタップのリズムやクラップハンドの音は違和感なく溶け込んでます。否、むしろこれぐらいバタついたリズムの方が相性はいいのかもしれません。もちろん踊りながらリズムを切るのがタップダンスですので当然のことながらダンサブル。ライヴもYoutubeで拝見したのですが、目の前でお姉ちゃんがタップを踊り、メンバー全員が陽気に歌い踊るというスタイルでした。賑やかでそれはもう盛り上がらんはずがないわけで。

ヴォーカル/ベースのキアナとジェイミーはパーク・アヴェニューというバンドに元々在籍。ニーリーは元ブライト・アイズのメンバーというキャリアを持っていて、どの曲も非常にしっかりしたメロディがあり、優しさの中にもUKフォーク/ギターポップの影響を思わせる影がほのかに香り、生々しさを感じさせる力強さがあります。流石ブライト・アイズ繋がり、というのはちょっと強引過ぎますかね。でも、例えばちょっと前にもの凄いブレイクしたエモ系のバンドたちにとって、スミスやジョイ・ディヴィジョンなどUKバンドたちの影響は計り知れなかったように、そうしたエッセンスを感じさせるUSインディのバンドの音ってやっぱりとても魅力的だったりするのですよね。

話が逸れました。さて、3週間のレコーディングで生まれたという本作は、瑞々しさでいっぱいの全10曲。“Rainbows in the Dark”は“There She Goes”を『アルプスの少女ハイジ』風にアレンジしたようなこのバンドのオープニングに相応しいナンバー。タンゴ色全開の哀愁のパーティチューン“Bad Education”はロックとは異なる「血の刹那」が込み上げてくるような曲。伸びやかなヴォーカルに耳が吸い込まれていく正統派のフォーク・チューン“Lost Girl”はシンプルなピアノの音色と後ろ髪引きまくりのサビが力強い泣ける曲。ちょっとカーペンターズっぽいメロディがデレックの低音ヴォーカルと心地よい相性を見せる“Love Song”。アルバム最大のパーティ・チューン“Sing Songs Along”は全員で合唱したくなるようなほがらかで力強い曲。90年代初期や80年代後期のUKギターポップを思わせる清涼感溢れる“Black and Blue”。カントリー&ウェスタンな“Brave Day”。他のバンドでは普通に使われている打ち込みとシンセもこのバンドで使われるととてもフレッシュに聴こえる“The Freest Man”。そしてラストの“Coughing Colors”はせり上がっていくコード、神聖なムードを感じさせるコーラス、穏やかで切なくて力強いデレックのヴォーカルが厳かに響き渡る締めに相応しい美しいピアノ弾き語りの曲。今気づいたけどデレックのヴォーカルはそのナチュラルな倦怠感を感じさせるところがちょっとブラーのデーモンに似てるかもしれません。

エレクトロニックなダンス・ミュージックとはまた異なったナチュラルな力強さとふわっと体温が上がるような高揚感。メロディに哀愁が影の部分がしっかりと表現されていて、それがポジティヴなメロディに転じていく様が、なんだかとてもいい気分にさせてくれるアルバムです。ポーグスのような酒場で死ぬ程盛り上がりそうな朗らかで、でも切なくて、温かくなれる素敵なアルバム。ギターポップファンはもちろんのこと、ちょっとエキゾな民族系に興味がある方にも、またダンサブルな音楽が好きな方にも是非是非オススメしたい音楽。もうすっかり秋の気配が漂っていますが、季節は冬を通り越し、ふきのとうの芽を愛でるような春の訪れを感じさせるアルバムでございます。