Grizzly Bear/Yellow House(06年9月2日発売/Beat Records)

yuzurusato2006-09-19


最近自分の中で、ニック・ドレイクやらニール・ヤングやらトム・ペティやらジム・オルークやらアコースティック・サイドのベックやらヴェルヴェットの3枚目やらTレックスの『A Beard Of Stars』やらシド・バレットベス・オートン『Comfort Of Strangers』(ジム・オルークがプロデュースしたカントリーなアルバム)や先日紹介したニーコ・ケースなどなどなどなどなど、サイケ、フォーク、アシッド・フォークの名盤を聴き返している日々なのですが、そんな中で出会った素敵な作品がこのグリズリー・ベアーの『Yellow House』です。

ニューヨークはブルックリンを拠点に活動し、最近話題のTVオン・ザ・レイディオとも親交が深い(音には何の関係性もないですが)というグリズリー・ベアーは、元々はエドワード・ドロストのソロ・ユニット。ファースト・アルバム『Horn Of Plenty』にドラムのクリストファー・ベアーが参加してから、クリス・テイラー(ベースや木管楽器やエレクトロニクス担当)、ダニエル・ロッセン(ヴォーカル/ギター)とメンバーが徐々に加入し現在のラインナップに落ち着きました。そして、本作がシェフィールドの老舗テクノ・レーベルで最近は良質なロック・バンドも積極的に輩出しているWarpに移籍しての記念すべき第1弾のアルバムとなります(実際は通算2枚目のアルバム)。バンドとしての体裁が整い、馴染んだこともあり、ベッドルーム・フォークな風合いの強かったファーストに比べ、ラフながらもより成熟されたバンド・アンサンブルが楽しめます。

で、このアルバム。冒頭を飾る“Easier”からとんでもないことになってます。爪弾かれるアコースティック・ギターを包み込む柔らかい霧雨のようなシンセから生まれる極上のサイケ空間への飛ばしっぷりはここ最近聴いたアルバムの中でもかなりの飛距離。こっちの事情なんて構っちゃくれません。90’sのサイケデリックシューゲイザーを通過したニック・ドレイクボーズ・オブ・カナダのバンド的解釈? 夢から醒めないアニマル・コレクティヴ? フレイミング・リップスとキスしたヴェルヴェット・アンダーグラウンド? とまあ自分のボキャブラリーの貧困さに鬱になりますが、豊潤な音響空間によって表現されるとろっとろにとろけた箱庭的世界観。ディティール重視というより、ざっくりぶっちゃけた作りの音響だからこそ実現できた繊細ながら実にダイナミックなサウンド。そのせいかズルズルなサイケっぷりと中毒性もかなり凶悪です。

アコースティックをベースにサイケデリックな音響を加えた“Lullabye”“Knife”“Lttle Brother”、ドローンな空間の中を物憂げに踊るナイトメア・ワルツ“Marla”、昇天必死のラスト“Clorado”と白昼夢のような美しい楽曲だけでなく、“Central And Remote”や“On A Neck, On A Spit”など、アグレッシヴかつ混沌とした展開を見せるガレージ・サイケ・チューンもまた素晴らしい。00年代に彗星のように表れたサイケデリック・フォーク・バンド、グリズリー・ベアー。90年代のマーキュリー・レヴやフレイミング・リップス同様、リスナーをあちら側の世界に連れて行ってくれること必死の1枚です。またこうした作品が90年代の音楽的進化の一端を担い、最近元気なことこの上ないWarpからリリースされることに、時代の巡りと音楽の進化の流れを感じさせられると思うのはちょっと言い過ぎでしょうか。